・地域おこし協力隊として移住するときのデメリット
地域おこし協力隊についていろいろ調べてみると、ただ普通に移住する場合と比べて田舎暮らしの取っ掛かりとしては、とても魅力的に思う方が多いのではないでしょか。
その反面、ネットで情報収集をしているとネガティブな情報も目にしてしまって「実際はどうなの?」と気になるところだと思います。
そこで今回は、市役所の地域振興担当部署で地域おこし協力隊を担当していた元担当者の視点から、普通に移住する場合と比較した地域おこし協力隊として移住するデメリットを考察してみたいと思います。
デメリット① 地域おこし協力隊に特有の立場がある
置かれるポジションが微妙な場合が多い
地域おこし協力隊は自治体職員なのかそれとも地域住民なのか、よく分からない中途半端な立場に置かれるケースがあります。
これはあくまで私の個人的な意見ですが、自治体担当者として協力隊員に話を聞いていくなかでそのように感じました。
地域おこし協力隊として移住した場合、地方自治体、地元住民の両方から何かしらの期待をされている可能性が高いです。
特に、住むことになる地域に定住することへの期待は大きいものと考えていた方がよいでしょう。
そんな中で、地元住民からは市町村役場の関係者と見られ、役場職員に対してわがままを言う感じと同じ様な感じで色々とお願いごとをされたりします。
その一方で、役場職員から見ると一部の特殊なケースを除いては、「組織の村社会」からは外れた存在と認識されています。
田舎の市町村役場は村意識がとても強く閉鎖的な環境なのですが、その村社会の中の人という認識をする職員は少ないです。
(一部の特殊なケースとは、これが良いことなのかどうかは別にして、活動拠点が役場の建物内部にあり役所業務の内勤のようなことをしている場合は、いつも顔を合わせるのでそのように感じることは少ないと思います。)
そのため、自治体職員、地域住民の両方からいわゆる「よそ者」扱いを受ける、または「よそ者」扱いを受けているように感じるという事態が生じる可能性があります。
特に着任したばかりの時はそのように感じるかもしれません。
集落(地域)の若手(便利屋)扱い
地域おこし協力隊として移住する場合、ほとんどのケースで地域住民との関わりは避けて通れません。
集落の若手としての役割を担い、地域行事のほか、消防団活動、地域の清掃、草刈りなど様々なことに駆り出されていくことになります。これらのことは全てボランティアです。
自分の時間を割いて参加することが求められます。さらには年配者の自宅の修繕などまでお願いされるケースもあるでしょう。
これは単に移住した場合にも当てはまることですが、地域おこし協力隊というポジションによって、その傾向がより顕著になる可能性が高いというのは押さえて方が良いかもしれません。
若手とは何歳までを指すのかという問題もありますが、これは集落によって様々です。私のいた市では60歳を過ぎても若手扱いとされている集落もありました。
とにかく過疎化の進んだ地域に行けば行くほど、集落の若手に求めれらるものが増えていくというようなイメージでしょうか。
”地域での助け合い”という観点から言うと、体を自由に動かせる若者がそのような役割を担わざるを得ないのも仕方のないことなのかもしれません。
その「若者」の役割だけを期待して、わざわざ過疎化の進んだ集落に地域おこし協力隊を送り込む地方自治体もあると聞いたことがあるくらいです。聞いただけなので真偽のほどは分かりません。
そして、居住する集落・地区や活動場所によって異なるので「絶対にそうなります」とまでは言えませんが、昔ながらの集落の場合はその傾向が強いように感じます。
日本全国の田舎の集落に当てはまるわけではありませんが、若者が都会に出ていく理由を考えれば何となく察しがつくのではないでしょうか。
これを田舎の温かさと捉えることも出来ますが、これが行き過ぎると日常生活がとても息苦しくなります。
こればかりは住んでみないと分かりませんし運の要素が強いと言えます。
そのため、協力隊員の活動場所がとてもアクが強い地域の場合は、活動場所と居住地を別にして地域と程よい距離感をもたせることによって、協力隊員の精神面が疲労しないように気を配っている自治体も存在します。
デメリット② 活動任期があるため、卒業後のプランを考えておく必要がある。
地域おこし協力隊の任期は長くても3年間です。最大2年間としている自治体もあります。
任期は地方自治体が自由に決めることが出来ますので、着任前に確認しておく必要があります。
建前としては、1年ごとに契約更新して最大で3年間としているところが多いのですが、余程のことがない限りは最大期間まで任期が更新されると考えて良いでしょう。
地域おこし協力隊の最大のメリットは、移住に際して仕事と住居を地方自治体が用意してくれることです。
良い言い方をすれば、移住のための仕事探しをする必要がなく、当面の間は収入面での心配をすることがない状態で移住が実現できるとも言えます。
それは逆に言うと、定住を考えた場合、卒業後の仕事と住居についてはいずれ自分で確保しなければならないということを意味します。
着任前や着任当初であればボンヤリと考えている程度でも大丈夫ですが、任期中には具体的な方向性とプランを練る必要があります。
特に、起業する場合は準備期間や試行錯誤を行う期間を考慮すると、早めの行動が成否を分けることになります。自分に出来ることは何か、どのような支援を受けられるかを様々な方面から探っておくことです。
卒業後のことを考えるのは早ければ早い方が良いと言えます。
そのため、任期が最大3年の場合は、最低でも2年目から検討をはじめて計画を立てておき、3年目には具体的に動き出すようなスケジュール感が必要です。
また、着任した地域、業務内容(ミッション)が自分に合わずどうしても続けることが難しいと感じた場合は、途中で辞めるという選択肢も持っておいた方が良いかもしれません。
地域おこし協力隊として2年以上働けば、地域要件を考えることなく、別の地域でさらに地域おこし協力隊となることも可能です。
詳しくは、地域おこし協力隊の制度について解説している記事がありますので、こちらの記事を参考にしてください!
https://chiiki-mikata.com/chiiki-okoshi-1/
デメリット③ 着任してみなければ本当のところは分からない
3-1 住居を選べない場合が多い
地域おこし協力隊では、協力隊員の仕事と住居を自治体が用意してくれる場合がほどんどですが、それは住む場所を自分で選ぶことが出来ないということでもあります。
そのため、地方自治体で住居を用意する場合は、どのようなところに住むことになるのかは地方自治体側の判断に委ねられることになります。
他人に自分の住む場所を委ねるのは少し心配になりますよね。
3-2 副業が出来ない場合がある
地方自治体との雇用関係がある場合は、「会計年度任用職員」という位置づけになり、自治体職員と同様の守秘義務や副業禁止が適用されます。
「会計年度任用職員」とは、一般職公務員より勤務時間か短い非常勤職員のようなものであると考えてください。
地域おこし協力隊を採用するに当たっての雇用形態に関する決まり事はありませんので、募集集る地方自治体が自由に設定することができます。
地方自治体と地域おこし協力隊員との関係性は、地方自治体と雇用関係がある場合と無い場合(この場合は業務委託契約となります)があります。
そのため、採用形態によって当たりハズレが左右されてしまいます。
特に、自治体と直接雇用関係がある場合は大幅に自由が制限されると考えておいた方がいいでしょう。
地方自治体と雇用関係があるのか、業務委託なのかは事前に確認しておきましょう。
3-3 地方自治体の方針に振り回されることがある
単純な移住であれば用事のない限り市町村役場と関わることはありませんが、地域おこし協力隊であれば役場との関わりを避けることは出来ません。
そのため、地方自治体の体制や考え方によっても当たりハズレは左右されます。
市町村役場では3~5年おきに異動がありますので、地域振興部署の課長など現場での決定権を持つ人(現場の管理職)が任期中に変わってしまうこともあります。特に管理職は短いスパンで異動することが多いです。
面接時に会った課長が着任時には違う人になっていた、なんて事も普通にあり得るわけです。行政機関に勤めたことが無い方にとっては分かりにくいことかもしれません。
前後で一貫性が無くなるほど大幅に変わることは少ないものの、決定権限を持つ管理職が変わることによって、現場の方針が変更になるということは珍しいことではありません。
少なくとも人が変わるということは、考え方という面においては多少なりとも違いがあると思っておいた方が良いでしょう。
田舎の地方自治体では昔ながらの古い考え方が未だに残っており、柔軟に物事を考えることができない傾向が強いということは頭に入れておいてください。
さらに、市町村長は選挙で選ばれるため、4年に一度の選挙の結果によっては地方自治体のトップが変わってしまうことも考えられます。
市町村長は自治体全体の方針を決定する権限を持っていますから、地域おこし協力隊に関する自治体全体の方針そのものが変更になる可能性もあります。
採用時もそうですが、任期中であっても不確定要素が存在するということになります。
ただ、ネット上で出回っているネガティブな情報のほとんどは地域おこし協力隊創成期の頃の話です。
”ブラック自治体”などと言われていましたね。
まだ地域おこし協力隊の認知度が低く、地方自治体側も試行錯誤していたり、地域との調整が出来ていないのに見切り発車で採用を行っていた地方自治体などもあった時期ですので、現在は当てはまるケースは少ないと思います。
ただ全部が全部そうとは限りませんので、現在でもネットで出回っているようなネガティブな情報に当てはまることが起きる可能性もあります。
この点については、実際に自分の目と耳で事前に情報を集めること以外に回避する方法はありません。
デメリット④ 給料が低い
4-1 給料はどのように決まるのか
地域おこし協力隊の給料は「この金額にしなければいけません」というような決まりはなく、募集する地方自治体によって様々に設定されています。
なので、地域おこし協力隊の給料は地方自治体が自由に決めることが出来ます。
ただ、目安となる基準があります。
地方自治体は地域おこし協力隊の採用・活動に必要となる費用を地方交付税の対象とすることができるのですが、国が決めた地方交付税の対象にできる金額に上限があるため、これを基準にして給料を設定している自治体がほとんどです。
地方交付税とは、国から地方自治体に渡される自治体運営費のようなものです。
雇用関係が無い場合は副業をすることができますので、給料が低くても問題ないかもしれませんが、地方自治体と雇用関係がある場合は副業が禁止されますので、基本的には支給される給料の中で生活していくことになります。
また、地方自治体と直接雇用がある場合は「会計年度任用職員」という扱いとなり、地域おこし協力隊にも賞与(ボーナス)が支給されるようになりました。
しかし、これはあくまで今まで給料としていた部分を少しずつ削って賞与(ボーナス)として支給しているに過ぎません。
なぜなら、国が決めた地方交付税の対象とできる金額の上限は変わりませんので、これを基準としている自治体が給料総額を変更することは考えにくいからです。
4-2 必要となる生活費によって感じ方が異なる
給料の金額については賛否両論あると思いますが、住居は自治体が借り上げてくれるなど、生活費自体があまりかからない場合が多いので、それなりの暮らしは出来ると思います。
もちろん、生活費にはその地域特有のものもあり、寒冷地では暖房のための燃料費が多くかかったり、田舎では移動のための自動車は必須だったりします。
活動で使用する自動車については、地方自治体が用意してくれて費用(リース代やガソリン代)を活動費から出してくれる場合がほとんどです。
しかし、それを私生活でも使用できるかどうかは地方自治体により変わります。
そのため、生活費がどれくらいかかるかは、食費や光熱水費など個人負担が当たり前だと思われる部分を除いて、地方自治体がどこまで配慮してくれるかによって異なってきます。
給料が低いと感じるか否かは人それぞれの感じ方の問題かもしれませんが、額面金額だけを見ると低いと感じることは否定できないでしょう。
そこで、副業が出来るかどうかが問題となってくると思いますが、地方自治体と雇用関係がある場合は副業をすることが出来ません。
なので、直接雇用かどうかを事前に確認することは重要なポイントとなってきます。
まとめ
以上が、元自治体担当者として考えた地域おこし協力隊を選択するデメリットです。
デメリットではなく逆にメリットであると感じる人もいると思いますので、最終的な判断は人それぞれの考え方や置かれた状況にもよります。
デメリットについては、私の個人的な意見が多く含まれていることを念頭においた上で、「こういうこともあるのだな」と参考にしてもらえれば幸いです。
今回は移住に際して地域おこし協力隊を選択するデメリットに限定して考察してみましたが、普通に移住する場合も含めた田舎に移住する際のデメリット全般についてはいずれ別の記事で紹介したいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。